「ベストアイテムは粗品のタオル」熱中症研究の専門家に聞いた、海辺での対策&予防方法
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「ベストアイテムは粗品のタオル」熱中症研究の専門家に聞いた、海辺での対策&予防方法

「海の中にいる」「水の近くだし、動いていない」というシチュエーションでも、熱中症になることをご存知ですか?今回は意外と見落としがちな“海辺の熱中症”について、早稲田大学でスポーツ科学を研究している細川由梨先生にお話を伺いました。記事の後半では、先生が海に行く際の必須アイテムも紹介しています。ぜひ最後までお読みくださいね。

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細川先生02

細川由梨
早稲田大学スポーツ科学学術院准教授。幼い頃からスポーツに親しみ、小学生の時に父親の仕事の関係で渡米、高校までを過ごし帰国。「スポーツが好き」「ヒトの身体が好き」という想いから、以降アスレチックトレーニングに関する研究を続け、暑環境での運動生理学やスポーツ関連突然死の予防など、セーフティにまつわる部分を専門とする。


海辺で気をつけたい、見落としがちなリスクたち

―そもそも熱中症は、どのようなメカニズムで起こるのでしょうか?

細川:熱中症というのは、体温が上昇することで引き起こされる病態の総称になります。“熱けいれん”“熱疲労“があり、一番重篤なのは“労作性熱中症“。高気温下で活発に動いて体温が上昇する…というものですね。夏場のニュースで見かける「室内でエアコンをつけずに過ごし、熱中症になった」というのは“非労作性熱中症“と呼ばれています。

動いている・いないに関係なく、体温を外に逃がせない状態が続くと、身体はオーバーヒートしてしまい、倦怠感や吐き気、頭痛などの体調不良が出てくることがあるのです。

―熱中症が加速する要因には、どういったものがありますか?

細川:体調不良を感じても早めに休憩できれば良いのですが、競走していたとか、遊びに夢中になっていたとか、保護者の方であれば、「子どもから目を離せない」という思いから、ガマンして過ごしてしまう場合があります。そうなると、一見健康であった人でもリスクが高まります。

「皆でいれば安全」という意識や、集団行動で自己申告しにくい環境や状況によって無理をしてしまうことも関係しているかもしれません。

余談ではありますが、高校生や中学生の部活動での熱中症発生率は、1年生が多いんです。もちろん体力や体格が上級生に追いついていない部分はありますが、「先輩が優先、後輩は後回し」という状況要因が関係しているのでは、と思っています。

―なるほど。海辺でそういった危険を回避するためには、どのような注意が必要でしょうか?

細川:日々の管理が良好な状態において私たちの体は、ある程度の体調不良には耐えられるキャパシティを持っているんですね。体温や心拍数の上昇、脱水など。ただ、「朝から何も食べていない」や「昨日、寝不足で…」などの状態が重なると、普段耐えられることでも、難しくなる場合があります。

ですので、非日常イベントである海水浴などへ行く際は、自分の普段の体調との違いに敏感になること。「移動で疲れている」「水分を摂っていない」などが重なると、急激に熱中症に傾きやすくなるので、自らフォローする行動を取ってください。

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また、特に夏は日中の気温が皮膚よりも高いことがあります。そうなると熱の移動が、外気温から皮膚へ入ってくることになり、積極的に冷却をしなければ体温が逃げない状況となるのです。海や川などの水辺へ行くのは暑い日が多いと思うので、自然環境を意識することも重要ですね。


「熱射病かも?」自分で気付くためには、周辺環境の確認を

―自分で「熱中症かも」と気付けるポイントはありますか?

細川:「喉の渇き」や「暑いと感じる」かは、主観での判断になるので、表現が難しいのですが…、その前提をふまえた上で脱水や高体温が続いた時に起きる症状は、ふらつき感や頭痛。視野が狭まる、“視野狭窄”まで出てしまうと、“熱失神”に近いものになるでしょう。

ただそれらの症状は熱中症以外の状態でも起こる体調不良の一種です。エアコンをつけていない屋内、炎天下のパラソルの下など、ご自身の環境が熱中症リスクが高いかどうかを鑑みて判断するようにしてください。

また、汗については、運動中の熱中症であれば、当然発汗があります。保健体育の教科書などで「汗をかけなくなっていて、赤く火照った乾いた皮膚」という描写がありますが、それは動いていない非労作性熱中症の場合。ですので、「汗をかいているから熱中症ではない」という判断は、運動中は控えた方が良いと思います。


熱射病を防ぐため、習慣化したい「水分補給」

―各家庭でできる、熱射病の予防策はありますか?

細川:日々の教育で心掛けていただきたいのは、「水分補給を体調管理の一環にしてほしい」ということ。例えば小学校では6月頃から水分補給対策のために、「水筒の持参」を許可されることが多いと思いますが、海辺に行く際も、「日焼け止めを塗ろう、帽子を被ろう」と一緒に「水分を補給しよう」という習慣になればいいなと思います。

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細川:水分は24時間での状態が重要なので、トイレの際のおしっこの色(※1)や、喉の渇きについて、普段の生活の中で意識付けしてほしいですね。「事前に気をつけなければいけないんだ」という自身のトリガーを持てるようになると、自発的に水を飲むようになり、良好な体調を保つ一助となります。特に、「飲んではだめ」と言われることはあっても、飲んでも良い時ははっきり言われることが少ない幼稚園〜小学校低学年くらいの子どもたちには、まわりの大人が水分補給の大切さを伝え、自発的に摂取できるようになってほしいなと思います。

※1 補足
おしっこの色…体内の水分量を判断するのに分かりやすい指標。色の濃さで体の水分レベルが把握できる。5/16に行なわれたJLA主催のイベントでも先生が紹介してくれています。
▼記事はこちら
https://sonae.uminohi.jp/n/n6a7a90d22e1f
▼セミナー動画はこちら(細川先生のパートは30:30頃〜です)
https://www.youtube.com/watch?v=UPAAJYm4heA


「倒れる」「バテている」など、熱中症になってしまった場合の応急処置法

―もし熱中症になってしまったら、どういった対応をしたら良いのでしょうか?

細川:そうですね。いくつか方法があります。

「視野が狭まる、倒れてしまった」場合は、血圧が急激に下がることで起きるため、口から水を飲める状態であれば飲んでください。そして、枕などで足を心臓よりも上にした状態で楽な姿勢になって休む。血圧の補正を促せば、数分で状況は解決するはずです。

「倒れないけど、明らかにバテている」場合は、脱水と高体温が主な原因のため、氷水に浸けたアイスタオルや氷のうなどをできるだけ広範囲に当ててください。首や脇の下、太ももの付け根など動脈の通る場所に当てるのも良いのですが、冷やしている表面が少なければ、冷却の効率は乏しいです。そして、できるだけ風通しの良い場所で楽な姿勢になってください。

もし近くに海があるのなら、安全を確保しながら日陰の浅瀬に入ってしまうのも手。海水浴中であれば濡れても大丈夫な服装だと思うので、ホースやシャワーで水浴びするのも良いです。よくスポーツの大会などでは「アイスタブ」「アイスバス」と呼ばれる氷を張った水風呂を用意するんですよね。体のリカバリーに使う選手もいますし、熱中症の人が入る場合もあります。体の核の部分の熱を取るには、大変効率が良いのです。

アイスバス01

▲アイスバスはこちら。2021年の東京五輪の医務室エリアにも、オーバーヒートしてしまった選手の体を一気に冷やすためのアイスバスを準備したそうです


海を楽しむために、カバンに入れておきたいアイテム&先生の心掛け

―細川先生が海辺に行くとき、必ず持っていくものがあれば教えてください。

細川:私が必ず持っていくものは、「帽子」「サングラス」「氷を入れた2リットルサイズのボトル」と「ペラペラのタオル」。温泉街や粗品としてもらう薄手のタオルが、活躍するんです。

熱中症になったとき、アイスタブの他に効果的に熱を取れるアイテムで、「アイスタオル」と呼ばれるものがあります。氷水などに浸したタオルを体にあてがって、熱をとるんです。それに流用しやすいのが、薄手のタオル。

アイスタオル01

▲氷をたくさんいれた水を使用して作る、アイスタオル

細川:体にまとわせるのが目的なので、薄手のものが好都合なんですね。何度も取替えてあげなければいけないのですが、氷を用意できない時に重宝します。手ぬぐいなどがある場合は、手ぬぐいでもOKです。


―最後に、細川先生が海辺に行く際に気をつけていること、心掛けなどがあれば教えてください。

細川:熱中症の観点から気をつけているのは、直射日光から皮膚を守ること。紫外線の暑さで体への負担が大きくなり、ストレスにつながることがわかっているので、守れる場所は守ってください。とりわけ、目に入る紫外線への配慮は忘れがちなので、帽子やサングラス、日傘を上手に使ってほしいですね。

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漠然と持っていた「水辺にいるから熱中症にならないだろう」という認識を変え、通常の生活と変わりなく熱中症に気をつけて行かねば…と、改めて思ったインタビューでした。水辺は「遊びに夢中になる子ども」と「見守る保護者」の双方が熱中症になるリスクが高い場面。今一度、水分補給への意識などを含め、お子さんと一緒に考えるきっかけにしてみてください。

ちなみに、取材させていただいた7月下旬は、2021年の東京五輪の真っ最中。細川先生はアスレチックトレーナーとして参加していたそうで…その時の1枚がこちら!

細川先生活動01


現地の環境温度を参照しながら、医務室の準備している場面。右側のオレンジ色の機材は暑さ指数(湿球黒球温度)を測定するものだとか。あらゆる視点から、選手をサポートしてくださっています…!

細川先生、お忙しい中ありがとうございました!

細川由梨先生の最新情報はこちら
https://www.waseda.jp/prj-spo/spo/
(大学での講義の他、一般向けのセミナーなどにも積極的に参加されているので、先生の研究に興味をもった方は、ぜひチェックです!)




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減らない海辺の事故、毎年平均30人もの子どもたちが犠牲となっている現状を変えるために活動しています。海辺のワクワクを安全に。noteでは最新の活動とメンバーの想いをお伝えします。私たちの活動は「海と日本PROJECT」の一環で実施しています。http://uminohi.jp/