修学旅行中の旅客船沈没事故。全員生還の“奇跡”を生んだ現場対応と事前のそなえとは?
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修学旅行中の旅客船沈没事故。全員生還の“奇跡”を生んだ現場対応と事前のそなえとは?

2020年11月、ある海難事故のニュースが話題になったのを知っていますか。
11月19日に香川県坂出市の与島北沖で起きた、旅客船沈没海難事故です。暗礁に衝突して浅瀬に乗り上げた船は沈没。しかし幸いにも、乗船していた修学旅行中の小学校6年生と教員等62人は地元の漁業者らの救助の下、全員が海の中から助け出されました。

今回、海のそなえ事務局では、こうした緊急事態に直面した際、どういった行動と意識、そして日頃のそなえが命を救う結果につながるのかを学び、みなさんに共有したいと思い、事故に遭遇した坂出市立川津小学校の白川校長先生にお話をうかがいました。

事故当日の様子を含め、貴重な情報をたくさん聞かせていただいたので、教育関係者をはじめ、海に行く機会のある保護者やお子さん、水辺の安全に関わる関係者にも、ぜひ知っていただき、今後のそなえの参考にしていただければと思います。

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(プロフィール)
白川豊浩
坂出市立川津小学校 校長。
http://kawatsu.sakura.ne.jp/

突然の衝突、浸水。児童に声をかけながら、救命行動をすすめた沈没までの約30分


-事故が起きたのは、県内修学旅行2日目。旅行最後の瀬戸内海クルージングの体験中でした。事故が起きた時の船上の様子について、うかがえますか。

白川:
突然、船体後部から「ドン」という音と本船全体に振動があり、児童の多くが驚きの声を上げましたが、私や教員が「大丈夫!」「落ち着いて!」「冷静に!」と繰り返し声をかけ、児童たちは声を静めました。その後、しばらくして乗組員から、救命胴衣を着けるよう指示がありましたが、客室内にエンジン音が響いていたこともあり、聞き取れていなかった児童もいたので、私や教員等でまわりの児童たちに救命胴衣を着けるよう指示しました。

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▲事故現場、与島北沖の航空写真(白川校長撮影)

-救命胴衣の着衣について、児童たちはすぐに対応ができましたか。

白川:
救命胴衣は、児童たちが座っていた座席下に収納されており、すぐに取り出すことができました。私や教員は児童の救命胴衣の装着を補助しましたが、児童同士も救命胴衣を身体に固定するため、紐をお互いに結び合う姿が見られました。児童をはじめ乗員が救命胴衣を装着している間に本船のエンジンが停止、客室内が静かになりました。そして、私は児童等ほぼ全員が救命胴衣を装着している状況を確認しました。

-ちょうどその頃、船内の浸水がはじまったと…。

白川:
はい。自分の足元に約1~2cmの浸水を確認し、少し前までこの状況を深刻なものとは受け止めていなかった私も、ほんの数分で客室前方の床上まで水が上がってきていたことに、急を要する状況であると判断しました。すぐに客室前方にいた児童たちに、客室前方の左右出入口からデッキへ出るよう指示を出し、児童のデッキへの移動を誘導、右舷前方出入口の外に出て児童の移動を補助しました。

しかし、本船の前方デッキには余裕がなく、さらに浸水が進んでいたことから、前方デッキに出ていた児童にフロントガラス面を上って船体天井に上がるよう指示しました。フロントガラス面の傾斜が急だったため、なかなか上れない児童がいましたが、自力で上り、上ってくる児童を引っ張り上げることができる児童に先に上がるように指示を出し、また、出入口付近にいた児童には、出入口周辺の突起物を使って船体天井に上がるよう指示し、そうした児童の補助をしました。

最悪の事態を防ぐために、「次はどうする」と考え続けた

―この緊急事態の中、迅速に判断を下し、児童たちに指示を出すことができた背後には、ご自身にどのような意識や心構えがあったとお考えですか。

白川:
私の脳裏に浮かんだのは、「次を考える」という言葉でした。この言葉は、2009年1月15日、アメリカ・ニューヨーク市で起きた航空機事故を基に制作された映画『ハドソン川の奇跡』の中で、事故機となったUSエアウェイズ1549便を操縦していた機長のチェスリー・サレンバーガー氏の言葉「人為的なミスを探すのなら、人的要因を考慮しなければならない。誰も経験していない初めての経験だからこそ、分析し、決断を下す時間が必要である」に起因するものでした。

つまり、危機状態の中で人間が次の行動を起こすためには、分析・決断の時間が必要で、結果的にその時間が事態を大きく左右することになるということです。この「次を考える」が脳裏に浮かんだ私は、自分の意識の中で「次はどうする。次はどうする」と考え続けていたことを思い出します。

-学校をはじめ、関係者への連絡はどのように対応されたのでしょうか。

白川:
児童等全員が船体天井へ移動したことを確認し、携帯電話で学校への連絡を行いました。電話に出た教頭に、「船が沈んでいるから市教委へ報告して」と事故発生を伝え、市教委への報告を指示。また、すでに船長による緊急通報は行われていること、そして現状からは今後の連絡は困難であることを教頭に伝えました。さらに、市教委指導主事携帯へ電話をかけ、指導主事より学校へ向かい教頭をフォローする旨の連絡を受けました。

-その頃、船上はどんな状況でしたか。

浸水の進行に伴い船体が不安定になる中、全員で声をかけ合って位置を変え、船体の水平を保つための行動をとりました。しばらくこの状況が続きましたが、この間、私たち教員は、児童に「大丈夫」「助けに来てくれるから」等、また、児童同士もお互いに「がんばれ」と声をかけ合いながら救助を待ちました。

-この間、船長や乗組員は、船体天井部に装備されていた救命浮器を準備、船体の浮力を保つために両舷と後方にある出入口の扉を閉じたりする等の措置を実施。その後、船長から、「大丈夫な子は海へ入り、船から離れて」という指示があったそうですね。

白川:
本船の沈没が近いことを察し、児童が沈没時に海へ引き込まれていけないと考え、船長の判断に従い、児童に同様の呼びかけを行いました。この船長や私の呼びかけに応じ、児童はお互いに声をかけ合って海へ飛び込み始めました。

しかし、恐怖心からどうしても海に飛び込めない児童もいましたので、私は、そうした児童十名余りに声をかけながら救助を待ちました。

-その後、救助にかけつけた地元の漁船や坂出海上保安署の巡視艇が到着し、児童たちの救助を開始。日没が近づき周辺が薄暗くなっていく中、対応にあたり、どのような点を注視していましたか。

白川:
救助のために移動する船舶によって海面が大きく動くため、まだ海中にいる児童等が万が一、救命浮器から離れ、大事に至ることがあってはいけないと考え、救命浮器ごとの人数を確認しようと試みました。しかし、この状況では、人数を確認すること自体が困難であると考え直し、救命浮器ごとのイメージを覚えようとしました。

救命浮器

▲救命浮器。つかまって救助を待つなど、海での落水時などで使用される。

つまり、数秒ずつ3つの救命浮器を順次注視する行動を繰り返し、もし、どれかの救命浮器のイメージに変化があれば異変が起きているからだと考えてのことです。

-その後も、別の漁船が到着し、救助に参加。全員の生還へとつながりました。

白川:
船の構造上、乗り込みやすい船に乗るように児童たちを誘導し、自力で乗り込めなかった児童らを先に乗船して引き上げました。また、漁船の船長の指示を仰ぎながら、私と教員たちも他の漁船へ移動し与島北港へ向けて移動。それから、携帯電話で、他の教諭が巡視艇に児童と一緒に救助されたとの報告を受けました。しかし、現場での救助人数の確認ができないままだったので、全員が救助されていることを祈るばかりでした。

その後、救助活動にあたったすべての船が与島北港に到着し、下船した児童、教員の人数確認が行われ、乗員62名全員の救助確認ができたとの知らせを坂出消防署署長より受けました。

世の中に絶対はない。大事なのは、日頃の学習体験とリスクへの意識を身に着けること

事故は、突然起こります。予測がつかないからこそ、日頃のリスクに対する意識やそなえへの取り組みが重要になってくることは言うまでもありません。ここからは、万が一のリスクを少しでも減らすために事前にどのような意識や対応をしていたのか、白川校長先生にお話をうかがいました。

-乗船人数の換算方法など、乗船前にどのような判断をされたのでしょうか。

白川:
修学旅行前の旅行取扱業者担当者との打合せ時には、船の定員も自動車と同じで大人2人に対して子ども3人の乗船が可能であることを理由に、定員46人の船を使用する旨の提案がありました。それに対して私は、コロナ禍での三密防止と万が一のことを考え、子ども一人1席以上の状態で乗船できる船をチャーターするよう指示しました。

-児童、教員が万が一の事態に対する安全管理や対応力をそなえるために、普段の学校生活の中でどのような指導やコミュニケーションを行っていますか。

白川:
今回、修学旅行を実施した11月18日~19日前の11月5日には香川県シェイクアウトに参加しての避難訓練、9日には坂出市消防本部との合同消火避難訓練を実施していました。その経験や合同訓練での消防隊員の迅速で機敏な行動を目の当たりにしていたことの効果は大きかったと思います。

また、この合同訓練時には、消防本部の専門官から教職員も含めた避難行動についての講評があり、その講評のなかに児童の避難を誘導する教職員の落ち着いた行動が児童に与える影響が大きいとの講評をいただき、訓練後にそのことを共有していたことも効果があったものと思います。

さらに、今回事故に遭遇した子どもたちは、第5学年での水泳学習時に着衣泳を経験していたことと、屋島少年自然の家での集団宿泊学習でのいかだ体験時にライフジャケットの着用を経験していました。今年度の第5学年の子どもたちは、コロナ禍のため、集団宿泊学習を実施することができませんでしたが、坂出市カヌー研修センターでのカヌー体験時に、ライフジャケットを着用してのカヌー体験を実施しました。

児童1

▲過去の校外学習でライフジャケットの着用経験があった児童たち


-今回経験したことを踏まえ、社会にどのようなことを伝えていきたいですか。

白川:
これまでの経験では、修学旅行計画時に、保護者負担の軽減を優先して考えることが多くありました。しかし、観光バスの借り上げ時においてもシートベルト着用の点から、子どもであっても1人正シート1席としているため、旅客船においても同じように扱うことが重要であると考えます。

また、航空機や観光バスにおいては、搭乗時、乗車時に、緊急時の対応や注意事項についての説明が行われています。旅客船においても同様の対応が必要です。事故が起きないことが一番ではありますが、「世の中に絶対はない」と言われるとおり、人為的、または機関の故障等の原因で事故が起きることがあります。従って、事故が起きた時のことを想定しての対応が必要不可欠であると考えています。

最後になりましたが、今回の海難事故で全員が生還できたのは、いち早く異変を察して現場に駆けつけ、直接救助に当たってくださった与島漁業協同組合の漁業者の皆様、後方支援に当たってくださった航行船舶や企業の皆様、そして、第六管区海上保安本部及び関係部署の皆様、さらに、坂出消防署や坂出警察署等、多くの皆様や関係機関の協力があってのことと感謝しています。

そして、そこには、知らせを聞いたすべての人々が「自分にできることをする」の気持ちで行動し、心が一つに結ばれたことが大きな力になったものと思います。このことから、一人では不可能なこともみんなで力を合わせれば可能となること、そのためにも日頃からのコミュニケーションを大切にし、多くの人や関係機関との良好な関係を築いておくことも大切なそなえであると考えます。

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白川校長先生からいただいた取材資料には、現場の状況経過時刻が克明に記録されており、緊急事態の中にありながら可能なかぎり冷静な判断を下し、対応をされていたのだということが想像されました。また、そうした指示のもと、ライフジャケットを全員が装着し、互いに励まし合いながら救命行動をおこなったことも、重要なポイントだったのではないでしょうか。

事故は予測がつかないものだからこそ、こうした経験者の体験談や提言はとても貴重なもの。未来の命を守るためにも、万が一のそなえのための知識のひとつとしてぜひ知っていただき、さらに多くの方へ共有していただければと思います。


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